青嵐緑風、白花繚乱
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


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 衣替え直前という、五月の末のとある日の昼休み。野外音楽堂にてお弁当を広げていた3人娘へお声をかけたは、彼女らとすっかり仲良しになっていた、ガールズバンドの下級生4人組で。先だって催した学園ライブの模様、どうしてももう一度楽しみたいというお声が多かったので、記録用にと収録していた映像から領布用のDVDを作ってくださったOGがいて。無論、当事者らに無断で運んだ仕儀じゃないし、あくまでも寄付型領布という形、OGや学園関係者と、そんな方々による紹介のあった相手にしか渡さぬし、流通も記録しておく所存。その上で、収益は公益の団体へ寄付するという格好で使う代物だとの説明があり。だったら特に異存はありませんと、まずはの主役たちが許諾をしたそうで。

 『ただ、あのあの…。』

 その、途轍もない興奮と熱狂を博した伝説のライブステージを、一緒に盛り上げた顔触れがおり。どう工夫を凝らしてみても、そのお姿が映り込んでいるシーンが多々あって。そちらのお姉様がたにも承諾を得ないとと、そこはしっかり者のゆっこちゃんが言い出して。確かめていただいてからお返事致しますねとお話を一旦止める格好にし、問題のDVDを持参して来てくださったらしい。

 「それは気を遣っていただきましたね。」
 「………。(頷、頷)」
 「あの日は結構興奮しておりましたから、
  どんな弾けた行動をとっていたものやら。」

 それに、いくら所在をはっきりさせるといっても、不特定多数の方々にまで観られる格好になるんですもの。シリアルを打って追跡するにしたって限度がありますし、それこそ本物の証拠だなんてプレミアがついたらどうしましょ…と。不安なんだか慣れておいでか、もっと詳しいところまで口にしつつの、それでも まま、あんまり不快には思ってらっしゃらないお姉様がたらしい感触だったのでと、後輩4人がそれぞれに胸を撫で下ろす。そんな中でも、

 「あい。」
 「え? あ、ははははいっ!」

 不意に名前を呼ばれ、日頃は ゆっこちゃんと並ぶほど落ち着いているはずが、うわあぁっと飛び上がりそうになった愛子ちゃん。それでなくとも、いつも笑顔で人当たりのいい林田先輩やおっとり優しい印象のする草野先輩とは違い、寡黙でちょっとおっかない雰囲気がなくもない(と勝手に思うことの多い)三木先輩からのお呼びだったので、ついつい姿勢を正してしまったが。そのお手元にあったウサギのフォークを見つけると、

 「あ、使って下さったんですねvv」
 「……。(頷)」

 雑貨屋さんで偶然同座したおりに、自分用にと選んでいたカトラリー。そちらは髪どめを選んでらしたのだけれど、横合いからじっとこちらの手元を見やっておいでだったので、同じのを2つ買って1つを“お揃いですよ”と手渡したのが先週の話。前にもお弁当箱とか“可愛いvv”と見とれて下さってたので、ついつい思い切ったことをしてしまったのへ、ちゃんと使ってるよというお答え下さったのが、きゃあきゃあとはしゃぎたいほど嬉しかったらしい愛子ちゃん。

 「〜〜〜。////////」
 「あらまあ。」

 感極まったか言葉も出ないほどに…使いものにならなくなったの、微笑ましいと見守りつつ。
(おいおい)

 「にしても。私たちって既にそんなにもお顔が指してたんですね。」

 DVDが出回れば、お顔も広まってしまうのねと、ややふざけて口にした平八だったのへ。途端に“え?”と意外そうなお顔となり、ここいらに一番近い繁華街、Q街のあちこちじゃあ既に有名なお姉様がたなのに?という反応が、後輩の彼女らから出たもんだから。実は…自覚まではなかったらしい3人娘、今更ながらに驚いてしまったようでもあって。

 「えと、だって皆さんお綺麗ですし。」

 何で自覚がなかったんだと、それこそこちらも吃驚仰天。こぉんな綺麗なお嬢さんたちが朗らかに微笑って待ち合わせなんてしておれば、モデルさんかな撮影でもあるのかなと、周囲だって気になってしまって当然というものだろし。

 「それと…あのその、時折 殿方ともご一緒ですよね。」

 「………………………………………え?」

 おっと、それが飛び出そうとはと。そこまでは微妙に面映ゆいという空気だったお姉様がたの表情へも、ささっと素早く暗雲垂れ込めかかったりして。だって此処は、品行方正なお嬢様がたの学び舎なのであり、学園の指針としては心身の健全な育成を目指すことを第一方針としておいで。よって、普通の学校以上に厳しいレベルで、異性との交際へは…それこそ親同士の認めた許婚者ででもない限り、どんなに純粋な想いを育んでる間柄であれ、厳しい咎め立てが襲って来かねないんじゃあ…と。このお嬢さんたちには珍しくも、世間一般並みの判断での誹謗中傷や糾弾といった脅威の数々が、さささぁっと脳裏を駆け巡ったらしかったのだが、

 「あれって、警視庁の刑事さんですよねvv」
 「やっぱり護衛とか警護とかとなると、
  そんな凄い人がじきじきに付かれるんでしょう?」

  「…………………はい?」

 こちらの案じようとは裏腹に、凄い凄いと妙にはしゃいでしまわれるお嬢ちゃんたちであり、

 “警視庁の刑事のってことは。”
 “勘兵衛様か征樹様…佐伯刑事のことですよね。”
 “………。(頷、頷)”

 どうやら目撃されたという殿方とはその二人のことらしいと、目配せのみにて通じる範囲を確かめ合ってから、

 「何で警察関係だと?」

 彼らはだがだが私服の刑事なんだから、一見しただけでそこまで判るもんじゃなかろうに。そこのところを…平八が出来るだけ自然な口調で訊いてみたところ、

 「入学式やクリスマスのミサのおり、
  長官様が出席なさるのへ同行なされたことがあって。」
 「そうそう。」
 「何だか芸術家みたいだとか、変装にしてはお素敵すぎるとか、
  新入生の間で話題になってらしたのでvv」

  ………ということは、

 “…佐伯さんの方じゃないな。”
 “………。(頷、頷)”

 そういや、警視総監だったか警察庁長官だったかのご令嬢も、代々ここへ通ってらっしゃいますものねと、今になって思い出したのがひなげしさんなら。

 「佐伯氏のみならず島田からも、街なかで声掛けられてるし。」

 そう言って自身の鼻の頭を指さした久蔵だったのは、シチと彼とが恋仲という前提の待ち合わせをしているとは勘ぐられちゃいないようだぞ、安心してね…という、そんな意味合いだったのだろが。

 “…………あんのお人は もうもうもうっ。///////////”

 どこが敏腕警部補なやら。結構隙だらけというか、いやいや、それもまたカモフラージュの一端なのかも? ああでもでも、そんな余計なことするぐらいだったら、アタシへもカモフラージュに見せかけての接触、持って下さってもいいじゃありませんかと。

 “今度はシチさんが使いものにならなくなっててどうしますか。”

 内面がぐらんぐらんしているらしい白百合さんだと、さすがに…真っ先に気づいた久蔵が、まずは。

 「シチ。」

 こちらの彼女には不自然なそれに見える笑みを浮かべた頬を、白い手で包み込んで宥めてやって。片や、それでやっと異変へ気がついたらしい平八が、わざとに“くすす”と苦笑を浮かべ、

 「いやですわ、シチさんたら。
  覚えのない素行不良と思われてたのかしらって、
  随分とドキドキなさったようですわね。」

 そんな言い回しをし、後輩さんたちへさりげなくの仄めかしを投げかける。華族の末裔とも知れ渡っておいでの白百合様は、品行方正、それはピュアなお嬢様だから、意外な疑い かけられたのかしらと、その純粋なお心をキュウッと絞め上げられてしまったらしいと…。

 『よくもまあまあ、そんな仄めかしをあんな一言でこなしてしまえたもんですね。』

 日頃、最愛の勘兵衛様を“タヌキだ、策士だ”と言われつけている白百合様が、ヘイさんだっていい勝負じゃありませぬかと、伏し目がちの半目になって非難するのは後日のお話だけれども。
(笑) そんな巧妙な言い回しにより、ありゃりゃあと素早く察した後輩のお嬢様たちの方も方で、どんだけセンシティブな方々なんだか。そうとは知らぬこととはいえ、さりとて、繊細なお姉様を動揺させてしまったのは事実とばかり、反省しきりとなってしまい、

 「それじゃあ、あのあの。お答えお待ちしておりますね。」

 逃げるようで申し訳無いけれど、自分たちではいかんせん、場の繕いようも判らない。ええ、ええと、それは鷹揚に頷いて下さったひなげしさんへは意が通じていたようなので、お任せする格好にて、そそくさ立ち去ってった彼女らであり。

 「???」
 「う〜んと、久蔵殿には おいおい説明してあげますね。」

 大切なお友達の動転を宥めんと、きゅうと懐ろへ抱き寄せまでしつつ。なのに……何だ何だ、何が起きたんだとキョロキョロしている約一名の態度こそ、平八さえ微笑ませた一服の清涼剤。人影が遠ざかったの見計らい、

 「ほらシチさん、しっかりなさい。」

 勘兵衛さんが意外な把握をされてて動揺したのは判りますが、久蔵殿へも余計な煽りつけをしているらしいことなぞは、今さっきとはいえ知ってたことだったでしょうにと。自分のことへとなると存外打たれ弱かったらしい七郎次へ、苦笑が絶えなかったひなげしさん。そんな彼女らへ、別な人影が近づきつつある気配もあって、今日の音楽堂はなかなかに盛況な場所なようである。




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  *唐突ではありますが、必要に迫られてのこと、
   ガールズバンド4人娘のお名前は、
   篠崎さん以外は、アニメの女性声優さんたちから拝借しました。
   (ホノカちゃんやミズキちゃん、
    水芸を披露した女芸人さんを担当された方々です。)
   愛子ちゃんの名字だけは、咄嗟につけてたのをそのままの流用です。
   右京寺綾子さんともども、
   特に誰という借り主キャラはおりませんので悪しからず。

  *今回は何だかほややんと始まってて、
   話の向かう先が未だに漠然としております、すいません。
   次くらいで核の部分もはっきりしてくるかと…。


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